R5年度技術士(建設部門_河川)(9)勉強法〜気候変動を踏まえた河川整備基本方針~

気候変動を踏まえ、河川整備基本方針が変わっていく

治水計画の基本である、河川整備基本方針が気候変動対応するように変わっていっているところです。これは非常に大きな動きですよね。
特に外力設定の技術的な部分について、私も詳しいわけではないのですが、考え方とともに実際に変更された河川整備基本方針の検討過程を追っていくことで、勉強してみたいと思い、今回取り上げるテーマとしました。
技術士(河川)を目指す方にとっては、基本的な知識として押さえておくべき内容にもなるかと思いますので、一緒に勉強していきましょう!

気候変動を踏まえた計画へ見直し

■治水計画を過去の降雨実績に基づく計画から、気候変動による降雨量の増加などを考慮した計画に見直し
という考え方の大転換が行われています。

2℃上昇シナリオでは、降雨量約1.1倍、流量約1.2倍、洪水発生頻度約2倍とされていますので、見直しすることも当然の時代になってきているということでしょう。

治水計画の外力の基準とするシナリオ

次に外力の基準とするシナリオについてです。
・治水計画に反映させる基準は2℃上昇時における平均的な外力
・4℃上昇時等は治水計画における整備メニューの点検や減災対策を行うためのリスク評価、将来改造を考慮した施設設計の工夫等の参考として活用する
とされていますね。ハード整備は2℃上昇が基準ということをインプットしておきましょう!

数値予測モデルの格子間隔による再現性の違い

次に数値予測モデルの格子間隔による再現性の違いについてみていきます。
下の表に特徴がうまくまとめられていますね。
治水計画で対象とする台風や前線性の降雨、集中豪雨を評価するために、5kmの領域解像度を示すモデルを活用するようです。

降雨特性の類似する地域分類

次は、降雨特性の類似する地域分類について。
皆さんもご存じの方も多いかもしれませんが、想定最大規模降雨に用いる地域区分、15地域区分に分割して検討をすることとしていますね。これは覚えやすいかと思います。

降雨量変化倍率

降雨量変化倍率については、2℃上昇パターンを採用するということはこの前にも出てきたところ。
北海道だけ1.15倍である点、注目ですね。

今後の気候変動を踏まえた治水計画の方向性と当面の対応(案)

ここまでのまとめになります。
①降雨量には、実績降雨データから得られた計画対象降雨の降雨量に過去の再現計算と将来の予測の比(降雨量変化倍率)を乗じることを基本
②過去の実績降雨のみでは降雨パターンが限定的である可能性への対応として、アンサンブル予測降雨データの降雨波形(降雨量そのものではなく時空間分布)の活用
が考えられると示されています。
この2点が重要な観点といえるでしょう。

基本高水の設定の流れ(案)

ここでは基本高水設定の流れがわかりやすくフロー図で整理されていますね。
追加された確認フローは
・計画対象降雨の降雨量の設定(気候変動の影響を含む近年降雨の取り扱い)
・『計画対象降雨の降雨量』×降雨量変化倍率(気候変動型計画対象降雨の降雨量)
・気候変動型計画対象降雨の降雨量へ引き延ばし(引き延ばす降雨波形等は左記に同じ)
とあります。
さらに、基本高水設定の総合判断にあたっては、
・アンサンブル将来予測降雨波形データを用いた検討
が追加されることとなっていますね。

次に、2010までと最新年までの1/100確率『降雨量』の比較がなされています。非常に気になる項目ですね。
結果として
・2010年までの標本を用いた1/100確率雨量に対し、最新年まで用いると、109水系の単純平均で1/100確率雨量の値が約2.7%増加
しているようです。地域差も大きいことが表・グラフを見てもよくわかりますね。

では『流量』はどうなっているでしょうか。
同様の比較をしたところ、
・2010年までの標本を用いた1/100確率流量に対し、最新年まで用いると、109水系の単純平均で1/100確率流量の値が約1.3%程度増加している
とのことです。

将来気候を踏まえた計画対象降雨の降雨量の設定手法(案)

降雨量変化倍率を乗じる対象降雨についてです。ポイントは2010年までの雨量標本を用いることでしょう。
『実務上、当面の対応として、降雨量変化倍率の算定に用いている過去実験の期間が2010年までであることを踏まえ、既定計画から雨量標本のデータ延伸を一律に2010年までにとどめ、2010年までの雨量標本を用い、定常の水文統計解析により確率雨量を算定し、これに降雨量変化倍率を乗じた値を計画対象降雨の降雨量とする。』
とありますね!
直近までではないところがポイントかなと思いました。『近年の計画規模に相当するような規模の洪水は基本高水の妥当性確認のため別途検討』という位置づけのようです。

基本高水の設定に係る総合的判断

従来の手法(これまで雨量データによる確率からの検討に加え、流量データによる確率からの検討、確率規模モデル降雨波形による検討を実施し、総合的な判断)に加え、新たな観点として
・降雨変化倍率を乗じた計画対象降雨の降雨量(R+)に調整したアンサンブル将来予測降雨波形を用いて流出計算した結果
・近年発生した実績洪水
を用いてはどうかと提案されていますね。

アンサンブル将来予測降雨波形を用いた検討

実際のアンサンブル将来予測降雨波形を用いた検討とはどのようなものかを見ていきましょう!
具体的には、
計画対象降雨の降雨量近傍の洪水を抽出し、その抽出波形を計画対象降雨の降雨量R+に引き縮めor引き伸ばし、流量を算出する
という手法のようです。

少し難しくなってきました。
実際の降雨波形ではない、「アンサンブル将来予測降雨波形を用いて時空間分布のクラスター分析を行い、将来発生頻度が高まるものの計画対象の実績降雨波形が含まれていないクラスターがある場合には、そのクラスターに分類されるアンサンブル将来予測降雨波形を抽出」とあります。
要は将来増加すると予測される降雨パターンも検討に含めるということでしょうか。私もなかなか理解が追いついてません。。。

アンサンブル将来予測降雨波形による流出計算で得られたハイドログラフ群について、決定する基本高水のピーク流量の妥当性の確認に活用
また、アンサンブル将来予測降雨データの降雨波形を減災対策目標として活用するなどが示されています。

今後の検討事項

今後の河川整備基本方針の変更にあたって検討すべき事項として、「気候変動を踏まえた目標設定」「流域治水の視点」「気候変動の河川生態等への影響」が考えられています。

(出所:http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/kihonhoushin/dai109kai/04_shiryou2_aratanahoushin.pdf)

具体例) 阿武隈川の河川整備基本方針の変更

では、実際に基本方針が変更された事例を見ていくことにしましょう。
ここでは令和元年東日本台風で甚大な被害が生じた阿武隈川の変更を見ていきたいと思います。

対象降雨の継続時間

まずは対象降雨の継続時間の設定です。これは実績から福島地点で、2日から36時間に変更設定することとしたようです。

対象降雨の降雨量

次に、対象降雨の降雨量の設定について。
計画規模は1/150を踏襲し、気候変動考慮の1.1倍を乗じて、261mm/36hを計画対象降雨の降雨量と設定していますね。

対象洪水

対象洪水の選定については、基本的には実績洪水波形として15洪水を選定し、年超過確率1/150の36時間雨量261mmに引き伸ばして、流出計算流量を算出しています。

アンサンブル予測降雨波形の抽出

次に、アンサンブル予測降雨波形の抽出です。
アンサンブル将来予測降雨波形から求めた、計画対象降雨の降雨量(福島261mm/36h)に近い10洪水を抽出。
抽出した降雨波形について、引き縮めor引き延ばしをして、見直した流出計算モデルにより流出量を算出
しています。

棄却された実績引き延ばし降雨の再検証

再検証はどのように行われているでしょうか。
ここでは、これまでの手法で棄却されていた引き延ばし降雨波形を、アンサンブル将来予測降雨波形による降雨パターンと照らし合わせて再検証を実施しています。

主要洪水群に不足する降雨パターンの確認

アンサンブル予測降雨波形でクラスターに分けて検討した際、主要洪水及びアンサンブル予測降雨波形に含まれないクラスター1と4に該当する降雨波形を2洪水抽出して、流出量を算出していますね。

既往洪水からの検討

既往洪水からの検討では、令和元年の東日本台風を用いています。

総合的判断による基本高水のピーク流量の設定

これまでの検討を総合的に判断した結果が以下。
・気候変動による外力の増加に対応するため、気候変動を考慮した雨量データによる確率からの検討、アンサンブル予測降雨波形を用いた検討、既往洪水からの検討から総合的に判断した結果、阿武隈川水系における基本高水のピーク流量は、基準地点福島において8,400m3/sと設定
・なお、雨量データによる確率からの検討について棄却されなかった降雨波形のうち、アンサンブル予測波形の得られている流量の範囲を超える2波形については、主要降雨波形から除いた上で、整備途上の上下流本支川バランスチェックに活用
という結果になったようです。

(出所:http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/kihonhoushin/dai119kai/05_houshinhenkou.pdf)

まとめ

今回は、非常に技術的に難しい話題を取り上げました。私もアンサンブルが実際何なのか、詳しいところはわかりませんが、気候変動を考慮したり、新たな技術を用いて検証し、実際の計画(基本高水)の設定が新たに行われていることは理解することができました。
これからも対象外力の検討が各水系で進んでいくと思いますので、動きを追っていきましょう。
技術士の論文で触れる際には、従来型の検討に加えて、気候変動対応で外力設定が見直されている現状も少し触れるなどすると良いかなと思います。
問題として直接的に聞かれた際も、ゼロ回答とならないよう、本記事の流れは把握しておくことをオススメします。