R5年度技術士(建設部門_河川)(4)勉強法〜事前放流~

ダムの事前放流に着目

令和3年7月に事前放流ガイドラインが作成され、令和4年度の出水期で効果を発揮した『ダムの事前放流』について、効果も出ていることから技術士の試験の論述で使える可能性があると思っています。
既存ダムを最大限に活用した『ダム再生事業』の施策が打ち出されてから数年が経過し、嵩上げや放流設備の増強などが進められているところです。
また、運用面に着目すると、本格的に利水ダムも含めて所管省庁横断の事前放流の運用が始まったことは画期的だと感じています。
ハードは既設ダムの嵩上げや放流設備増強等、ソフトは事前放流といった解決策を記述で書けるように準備しておくと良いでしょう。合わせて、ハード・ソフトそれぞれにおける課題も記述できるようにしておくことが重要ですので、施策を調べてみて良い部分、課題として残っている部分を考えておくと良いでしょう。

令和4年度の出水期の実績は?

令和4年度の実績はどの程度だったのでしょうか?まとめたものが記者発表されていましたので、ここで紹介させていただきますね!
資料をみると、
・のべ162ダムで事前放流を実施し約5.5億m3の容量を確保。
・うち、利水ダムではのべ86ダムで事前放流を実施し約2.9m3の容量を確保。
とありますね。これはなかなか大きな効果だったのではないでしょうか!

(出所:https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001573898.pdf)

実例を見てみると、球磨川の市房ダムによる事前放流の効果(熊本県人吉等への効果)なども紹介されているので、効果をイメージする際には勉強になるかと思います。

(出所:https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001573898.pdf)

事前放流ガイドライン

次に、令和3年7月に作成された『事前放流ガイドライン』を見ていきましょう。ガイドライン自体は文章でわかりづらいものになっていますが、概要や参考資料がわかりやすいと思いましたので、ここで紹介したいと思います。

概要

主な内容

事前放流ガイドラインの主な内容は以下の通りとなっています。
◆開始基準の設定
◆事前放流による貯水位低下量の設定方法
◆事前放流時の最大放流量
◆事前放流の中止の基準
◆事前放流の実施にあたっての留意事項
などはしっかりと押さえておきたいところですね。

開始基準と貯水位低下量

次に、開始基準と貯水位低下量について概要が示されていますので、こちらも確認していきましょう!このあたりは内容をしっかり把握しておくことで、技術士の論述の際に厚みが出るかと思います。いずれも重要な内容となっているので、しっかり理解できるように読んでおきましょう!

【開始基準】
・ダム上流の予測降雨量が、ダムごとに定めた基準降雨量以上であるとき
・基準降雨量は、下流で氾濫等の被害が生じるおそれのある規模(ダム下流河川の現況流下能力に相当する規模)の降雨として定める
【貯水位低下量設定方法】
(予測降雨量)
・事前放流の実施判断は3日前から行うことを基本とし、予測降雨量は84時間先までの予測を行うモデル(気象庁の全球モデル)による数値予報データを用いることを基本とする。
39時間先までの予測を行うモデル(気象庁のメソモデル)による数値予報データも併せて用い、いずれか大きい方が基準降雨量以上であるかを確認する。
(貯水位低下量)
・予測総降雨量をもとにダムの流入総量を算出し、事前放流により確保する容量を設定した上でこれを貯水位に換算する。

事前放流の実施フロー

次に、事前放流の実施フローの例が示されています。事前放流開始までの流れも把握できるので、左の図はしっかりと押さえておきたいですね。
①気象台が「台風に関する全般気象情報」や「大雨に関する全般気象情報」を発表
②河川管理者が、ダム管理者へ、①の情報を提供し、事前放流を実施する態勢に入るよう伝える
 ダム管理者が国土交通省のシステムにアクセスし、予測降雨量を注視
③予測降雨量が基準降雨量を上回り、ダム管理者が事前放流の実施を決定
 ダムの流入総量を予測し、貯水位低下量を算定
④事前放流の開始

(出所:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kisondam_kouzuichousetsu/pdf/jizenhouryu_guideline1.pdf)

詳細

一級河川の基準地点上流面積と降雨継続時間の関係

基準地点上流面積と対象降雨継続時間の関係が参考として示されていました。400km2までは6~12時間、400km2以上は12時間以上が採用されている傾向にあるようです。基礎的な知識として把握しておくと良い情報ですね!

事前放流による貯水位低下量の設定方法

次に事前放流による貯水位低下量の設定方法についてです。
ここで把握しておくべきは左下の図のイメージをしっかりと押さえておくことでしょう。
『貯水位低下量は確保容量※(予測されるダムへの流入総量からダムからの放流総量を減じたうえで、予測時点の空き容量を考慮した容量)を貯水位に換算して設定。
※予測されるダム流入総量ー洪水調節容量(治水を目的に持つ多目的ダム)ー利水容量が満水位未満の貯水位である場合の当該空き容量ーダム放流総量』

貯水位低下量の算定方法

ここでは、多目的ダムと利水ダムそれぞれにおける貯水位低下量算定方法のイメージがわかりやすく示されていますね。違いは治水目的の洪水調節容量の有無であることがわかりますね。

時間経過イメージ

ここでは3日前から、GSMとMSMを併用した降雨量チェックのイメージが示されています。降雨量予測はあくまでも予測なので、臨機応変に精度の高い情報を元に判断していくことになることがわかりますね。

水系に複数のダムがある場合の貯水位低下量の算定方法

水系に複数ダムがある場合の貯水位低下量の算定方法について示されています。多くの水系で上下流連続的に配置されていることが多いように思いますので、この考え方も理解しておくと良いでしょう
【確保容量の算定方法】
複数のダムをひとまとまりのダムと捉え、最下流のダムにおいてダム流入総量及びダム放流総量を設定して確保容量を算出し、これを各ダムの洪水調節可能容量比で按分して各ダムに割り当てることなどにより、各ダムの確保容量とする。

水系に複数のダムがある場合における各ダムの放流量

次に放流量についてです。ここではちゃんと下流ダムの洪水吐放流能力を把握しておくことが重要であると示されていますね。利水放流設備のみを用いる場合なども場合分けして示されています。

(出所:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kisondam_kouzuichousetsu/pdf/jizenhouryu_guideline2.pdf)

まとめ

今回は事前放流についてみていきました。私自身も勉強になる部分が多かったです。
治水面ではこのような連携が図られているところですが、利水の観点ではどうなのでしょうか。
今話題のカーボンニュートラルの観点も踏まえ、水力発電などが最大化するような運用を実施できる期間(非出水期。非灌漑期)もあるように思います。今後は純国産の再生可能エネルギーである水力発電もまた注目されてくる流れがあると思いますので、そのような課題を技術士の試験で触れることもありなのかもしれません。
今後、そのような研究も出てくると面白いなと思います。