【おすすめ】ゼネコン5.0 SDGs、DX時代の建設業の経営戦略

2022年3月29日

技術士試験(建設業界対応)にも使える 基礎体力がつく本

令和4年3月に発売された「ゼネコン5.0 SDGs、DX時代の建設業の経営戦略」について、早速購入し、読んでみました。

ゼネコン5.0―SDGs、DX時代の建設業の経営戦略 | アーサー・ディ・リトル・ジャパン, 古田 直也, 南津 和広, 新井本 昌宏 | ビジネス・経済 | Kindleストア | Amazon

業界を知る上で、分かっていること・知っていることも多いと思いますが、「建設業界の中ではなく外から見た時の視点」が勉強になる一冊でした。私は発注者側の土木に偏った知識しか持っていないので、こういう異業種、経営の観点からゼネコンを捉えた書籍を読むことで、視野が広がったように感じます。

全体の印象としては、

『これまでの建設業界の護送船団方式からの変革が迫られているんだな。できない・変われない理由を考えるのではなく、あるべき姿から逆算してできる手段(デジタル化など)を講じて変革が迫られているんだな。』

ということです。

長谷工のマンション、五洋のマリコン、フジタの海外といった特化型で成長を見せる準大手もありつつ、スーパーはゼネコンは発注者の意向を適切に把握し実現するためのマネジメント力を有しているが、結局今後の成長のための現在の技術投資が正しいのか不安がっている(冷徹に企業の成長だけを見据えた正しい経営判断が出来ているのか)現状にあるようですね。

それぞれの章を読んだ私の感想を以下にまとめていきますので、本書を手に取っていただく際のご参考にしていただけると幸いです。

第1章 建設インフラ・建材業界の外観

ゼネコンの成り立ちから振り返ることができる、非常に勉強になる章。

単純労働から技能労働、そして明治期の近代業務組織(今のスーパーゼネコン)へ続く流れ。

規制の観点では競争入札の導入により市場が混乱した。

その後、土・木からセメント・鉄へと材料の高度化に伴い、設備・機器による生産性向上に資する投資を行う近代的な企業体へと生まれ変わった。

この成功体験が、今の日本のゼネコンの技術へのこだわりや研究開発機構の内製化を重視する傾向につながっている。

地場の機能工の減少による「ピラミッド構造」から「ダイアモンド構造」へと変遷が建設業界全体に変革を求めている。

BPR(Business Process Re-engineering)なしでのデジタル化は単なる自動化・省力化となり、個別最適の集合体になってしまいがち。全体としてのクリティカルパスが改善されない。結果、全体の業務スピードが上がらなかったり、人で不足の解消につながらなかったりする。

【新たな技術の導入

  • 「プレーヤー間の線引きが変わってくる」:建設産業内でのプロフィットプールの移動がゼネコンと設備業者の間で生じ、ゼネコンがアクセス可能な市場のフルポテンシャルが縮小する
  • 「モノ売りからコト売りへと変わってくる」:情報収集技術の進化によって建設物の利用者情報の取得が実現し、利用者を巡ったサービス競争の過熱が見込まれる。もしゼネコンが情報収集技術の進化に遅れをとる場合、ゼネコンがアクセス可能な市場のフルポテンシャルが建設業から他産業へシフトし縮小していく。

第2章 建設インフラ・建材業界の最新トピック

デジタルテクノロジーの活用を考える際、現状に対してデジタルテクノロジーを適用することで何ができるかという、現状ベースの観点に加え、デジタルテクノロジーのフルポテンシャルの効果を享受するには現状をどう変えればよいかという逆転した発想での検討も経営として求められる。

BIM活用の理想と現実のギャップとして、現場浸透ギャップ、経営期待ギャップ、目的効果ギャップ、生産性ギャップ、自動連係ギャップ、海外ギャップの6つのギャップがあると認識。

また、BIMの種類とゼネコンの動向としては、設計より施工段階の方が普及してきている。

BIMを最大限活用するためには、何を属性情報として取り込み、何を属性情報としないのかの判断がBIMのフルポテンシャルを活用するための最初の分岐点となる。

海外では契約トラブル防止によるリスク排除を主目的に導入・活用する建設関連企業が多い印象。

製造業の思想を持ってくると、これからは1案件複数BIMへ転換し、その実現基盤となるマスターBIMと機能や工程といった用途別BIMで構成していくこととなるであろう。

BIMで暗黙知が形式知化していく可能性がある。i-ConstructionはMGやMCの導入といった既存工程への新技術の適用だから活用が進んでいる。一方、フルポテンシャルを活かすためには、適用条件の明確化、資産管理方法の整備が求められる。

現状のPL、BS面の色彩の強い事業モデルに加え、SDGs・ESGという財務指標の枠に収まらない非財務指標面の色彩の強い指標で企業活動のマネジメントが求められるようになる。

バリューチェーン型から、個人が起点となる価値提供ネットワーク型へ産業構造が変化する中、コーディネートをしていく役割はますます重要になる。双方向の価値のオーケストレーターの役割を発揮するには、4つの能力「各個人のニーズを把握する能力」「各個人のニーズを各産業・企業が理解できる内容に翻訳する能力」「さまざまな製品やサービスを目利きする能力」「さまざまな製品やサービスを束ねてソリューションにする能力」が必要。

第3章 ゼネコンの抱える課題

労働者の減少、労働者の年齢構成のいびつさ(高齢化)、需給バランスの不均衡(需要が多い)が大きな課題。

長期間安定的に続いてきた成長を前提として成り立っている業界OSがアップデートされないことが課題。

部材・工程の複雑化、経験工学的要素が強くなっていること、経験を備えた労働者の確保が難しくなっていること、製造業と比べて生産性が劣ること、受注産業として自社戦略を描きにくいことといった問題があることが、未だに業界OSが根深く残っていることの証。

業界OSの副作用として、「契約の不透明性」「価格形成の機能不全」「各種知見の受注サイドへの偏重」があげられる。

第4章 日本のゼネコンの戦略オプション

戦略立案上の最近の潮流として、標準化、デジタル化、レイヤー化があげられる。建設業界においても他業界のように、いかに企業価値向上に資する戦略立案機能を具備し、潮流に対して自分達の強みを発揮できる領域を見極めて取り組むかが問われている。

公共土木では、市場縮小トレンドが背景にある中、これまでと同様の事業運営をしていては、じり貧の状況に陥る可能性がある。生き残り、勝ち残る上では過去の延長や横並び、受け身の発想ではなく、自社ならではの戦略オプションを能動的に立案することが期待される。

第5章 ゼネコンに対する処方箋

物流施設

物流施設は建設需要拡大フェーズ。物流エンジニアリングと建設エンジニアリングの融合により、新たな価値を創出できる可能性がある。物流プロセスの最適解を導くためのAI技術や機会学習の適用、異なるマテハン機械設備を統合的に管理するためのソフトウェア開発などに取り組むといったことが考えられる。

フロントローディング

フロントローディングがモデル事業以外に広がっていかない理由は、工数捻出やコスト負担、実施により評価される仕組みといった責任権限設計、組織・プロセス設計が曖昧なまま、導入の掛け声だけや、フロントローディング自体の取組手順のみの整備では、全社展開はいつまで経っても道半ばにとどまる。

フロントローディングのフルポテンシャルを考えると「工数(作業員)×個別」や、「工数(エキスパート)×複数横断」つまり作業所長のプロジェクトアサインタイミングの最適化があげられる。

ダイナミックなエキスパートの配置戦略は個別建設案件プロジェクトの採算性管理にとどまらない、全社での企業価値向上に向けた成長サイクルを描く重要な取組といえる。

標準化

標準化の実施可否判断としては、「価値を感じられる単位にまとめなければ、標準化する意味がなく、むしろまとめることで価値を損ねるまとめ方も存在する」という点に留意が必要。「標準化の目的」「標準化の影響範囲」「標準化の対象」「標準化の効果」「標準化のフィージビリティ/リスク」の視点を押さえることが重要。

技術の棚卸

棚卸の視点としては

  • 事業視点:事業収益に本当に寄与している技術は何か?
  • 競争視点:差別化された技術は何か?
  • ライフサイクル視点:成熟化した技術は何か?

があげられる。

技術の棚卸を踏まえた新事業構想アプローチとしては、技術を機能へ、さらに顧客ニーズへと翻訳する必要がある。

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Posted by SK